ヘンな日本美術史 あるいは、ドクゼツな日本美術史
ヘンな日本美術史 山口晃著
めちゃくちゃ面白かった。いやー面白かった。
2015年に買った本、読んだ本でベストかも。
外国人と話す機会の多い人もこれ読んだ方がいいかもしれない。
海外の人と話すときに堂々に日本美術館を説明できるようになる。
山口晃が自身の愛する「ヘンな」絵を取り上げながら
日本美術の性質、特徴を西洋美術、モダンアートとの対比で語っていく。
作者の作品への好き嫌いがはっきりしていて面白い。もはや、毒舌と言ってもいい。
例えば教科書にも載っていた
この作品については
”「伝源頼朝像」を始めてみた感想はつまらない。
こんな絵をずっと見たいと思っていたのか?”
だ。 そして、ただの毒舌では終わらず なぜ、そう思ってしまうのか、そう見えるのかを美術作成の技術と当時と現在の作品を見る環境の違いや、後年の修復の是非の問題などを具体的に解説しながら明らかにしていく。
(詳しくは本書に譲るが伝源頼朝像は昭和54年に修復されている。)
毒舌のあまり、彼の個人的な感想だったと思っていたものが、実は技術的な裏付けと
日本から西洋そして古代から現代への深い知識に基づく解釈なのだということが
分かってくるのが面白い。
それを知るにつれて私(たち)の美術を見る目も、ただ漠然と画面を見ていたのが
筆の勢い、画面に存在するいくつもの視点、絵画の装飾など
作品を鑑賞するとき 注目すべき様々な要素に気づく。
そして、次第に作品の置かれていた場所やその絵画を見る環境
さらには、当時の絵画を見ていた人々の生きかたそのものを想像するところまで
拡がっていく。
そんな風に真摯に作品と向き合うことが
美術を観る大きな喜びだということを思い出させてくれる。
また、作者が語る
透視図法のように1点の視点から作品を描き写実的に見せるのではなく
一つの作品の中に私たちが日常に使う様々な視点を一枚の絵に盛り込んで描く日本画の在り方がとても魅力的に感じた。
三次元の世界を二次元に写し取るのが絵画なのだから
そこにはそもそも嘘がある。
だからどんなに写実的な絵画も巧妙な嘘、例えば透視図法 を基に描かれる。
そんな嘘やルールに縛られるある意味窮屈な西洋の絵画にはない魅力が日本画にある。
例えば、
人間は、好きな人、心に残るものは大きく、そうでないものは小さく視えてしまう。
旅行で大きく見えた観光名所を写真で撮ってみると思ったより小さく感じることは
誰もが一度はあるのではないか。
だから日本画では印象に残ったり、主題となる人は大きく、そうでない人やものは
小さく描く。
他方では、生活していくうちに道を歩いているときに見る視点と
五重塔に上った時に見える視点を組み合わせた視点を重ねて
私たちの心に中に浮かぶイメージとしての都市を描く。
そんな写実からも自由になった日本画は、
決して写実的な西洋の絵画に劣るものではない。
それを言い切れる作者の美意識
それこそが、心に染みた。
かと思えば
NHK 日本戦後サブカル史Ⅱに紹介されそうな へたうま
をいかに長く日本人が愛好していたかも書かれる。
(サブタイトルは 下手うまでなく下手くそと刺激的。)
ここでは、語りきれない、日本美術の魅力が詰まった一冊
本当に面白い大事な一冊になりました。
いやー読み返しちゃう。 表紙もいいんだよなぁ
大好きな一冊。